■この映画のストーリー
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美しい紺碧の空を背景に、はるか彼方の地平線まで褐色の大地が広がる空間を、フェデックス宅急便の配送車が走ってくる。十字路を曲がり、牧場主の家へと向う。家の庭には天使の翼の彫刻が置かれている。映画はこのシーンから始まり、そして・・・4年後。チャックが車を走らせて、天使の翼の絵のついた小荷物を届けにくる。その帰路、交差する道路の真ん中に立って地図を眺め、道路が伸びていくはるか彼方を眺める。なぜ迷っているのか。その答えを観客に尋ねているかのように映画は閉じる。
映画の始まりと終わりはこうだが、物語の流れはじつに波瀾万丈である。主人公チャック・ノーランドは、速さを誇る国際宅配便会社のシステム・エンジニア。世界中を駆け回り、1秒も無駄にしないことを信条とする。恋人ケリーも学位論文の準備で忙しい。2人のデートも秒刻みである。やっと年越しをケリーと一緒に過そうと約束して飛行機に乗ったところ、この飛行機が大平洋上で嵐の海へ不時着する。凄まじい衝撃、火を吹く機体・・・救命ボートで、現場を脱出して無人島に流れ着いた。
大海原にひょっこりと浮かぶ小さな島だが、ここは豊富なココナッツと熱帯の珊瑚礁に囲まれたトロピカルアイランドであった。しかし文明社会には普通にある物がここには何一つない。乾くのどを潤す飲水もない。ココナッツは豊富にあるがそれを割る道具がない。火をおこす道具もない・・・。砂の上のHELPの文字を見つけて飛行機も救助にやってこない。遠くに船の灯りを見つけて、壊れかかった救命ボートを漕ぎ出してはみるが、荒波を乗り越えることができない。珊瑚礁にたたきつけられて大怪我をしてしまった。
孤島では、たった1人で孤独に打ち勝って生きていくしか方法がないのだ。石を尖らせてナイフがわりに使い、石ヤリを使って魚をとり、火をおこし、カニを焼き、雨水をあつめて飲料水にする生活、海鳴り、風の声、波の音、雷鳴、雨の音などの自然音を聞きながら、砂浜や洞穴での生活が続く。これまでは時間に追われていたチャックだったが、ここでは時間がありすぎる。
数字を計算してこの孤島の位置を推定し、テキサスの2倍(50万平方マイル)もある捜査海域では絶対に自分を見つけてはもらえないと分かって、絶望感にとらわれる。友達代わりに話しかけているバレーボールのウィルソンと金時計の蓋の内側のケリーの写真を見ながら、虫歯の痛みにもう耐えられなくなる・・・。
4年が過ぎた。海の中から現れたチャックの風貌は原始人かと戸惑うほど変わってしまっていた。ある日、ポルタポッティが岸に打ち寄せられる。もしかして、これを帆にした筏をつくれば、あの珊瑚礁の荒波を乗り越えて大海に出れるかもしれないという希望。チャックはカレンダーを作り、月と潮の満ち干と風向きを記録する。そしてヤシの木の丸太とポルタポッティを帆にした筏を組み立てる。
ウィルソンを落ちないようにしっかりと船首に結わえた筏は、西風の吹く合図で出航する。何度も襲いかかる荒波をくぐりぬけてやっと大海に出たチャックとウィルソン。あとは風と潮流にまかせてオールをこぐだけ。どこかで定期船に遭遇することを運にゆだねるだけであった。何日も漂流し、嵐の直撃をうける。マストから海に落ちて波間を漂うウィルソンを助けにいく力もなくなり、オールをこぐ力もついにつきたチャック。ただ筏の上に横たわっているだけだった・・・。鯨の吹きあげる潮のしぶきで目をさますと、近くを貨物船が通りかかる。救助されたチャックは、「ケリー」というだけであった。
4ヵ月後にチャックはケリーと再会するが、彼女には夫と子供もいる。彼女はテーブルに大平洋の地図を広げ、地図上に捜査海域を囲み、チャックのいた島はクック諸島の南方600マイル先きで、そこからさらに500マイルも離れた海を漂流していたところを発見されたのだと説明する。あの墜落事故から4年間の空白があった。
チャックは後で同僚のスタンにこう語っている。「2人で計算をした。ケリーは全部足してみた。彼女はそれでぼくをあきらめた。ぼくも足してみた。彼女を失ったことがわかった。ぼくはあの島から出られなかったんだ」(We
both had done the math, and Kelly added it all up. She knew she
had to let me go. I added it up, knew that I'd...I'd lost her. 'Cause
I was never gonna get off thatisland.→p.128)。「彼女を失ったことは悲しいが、彼女の写真があの島で一緒にいてくれたことにとても感謝している」。チャックが抱くケリーへの愛は、彼女を失った喪失感を経て、彼女を見守り受容する愛へと高揚したのだ。
今、チャックは孤島から大切に持ち帰った小荷物、それは変色しているが天使の翼の絵のついた小荷物で、それをテキサスに住む送り先へ届けた。そして、帰路の十字路に立つ。4方向に遠く彼方まで伸びている道路、チャックはどの道を選択するのだろうか。チャックのことばを引用するなら、「潮流が何を運んでくるかは誰にもわからない」
(Who knows what the tide could bring? →p.130)。だから迷う、されど・・・ 『キャスト
アウェイ』の監督と主演は、1995年の第67回アカデミー賞受賞『フォレスト・ガンプ/一期一会』(Forrest Gump '94)でお馴染みのロバート・ゼメキスとトム・ハンクスのコンビである。トムが最初にアイディアを立案し、ウイリアム・プロイルス・Jr.
が脚本を担当し、ロバート・ゼメキスが監督を、それからトムと共に製作した。トム・ハンクスは主役のチャック・ノーランドを演じ、恋人のケリー役をヘレン・ハントが演じた。彼は2001年の第73回アカデミー賞をはじめ数々の賞にノミネートされ、見事に第58回ゴールデングローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀主演男優賞を獲得したのである。
本書では、セリフが少なく逆にト書きが多いこと、ロシア語やフランス語の会話シーンも微小ながら採りあげたこと、これはこれまでのスクリーンプレイ・シリーズと趣の違うところである。セリフだけでなくト書きを読んでいくと一つ一つの映像が目の前にくっきりと浮かび上がってくるだろう。つまり、文字から映像がリアルに浮き上がってきて、読むことも観ることもますます楽しくなってくるのだ。
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塚田 三千代 |
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■この映画の英語について
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現代のアメリカン・スタンダード英語を味わうことができる。主役のチャック(トム・ハンクス)は、メンフィスの国際宅急便会社のシステム・エンジニア。当然、まわりの人たちはビジネスの関係であり、恋人のケリー(ヘレン・ハント)は大学院生で博士論文に挑戦している。そういう環境で話される会話であるから、言葉使いも内容もレベルの高い洗練されたものになっている。
英語を学習する人たちにとって、チャックの運命につぎつぎと降り掛かるシーンの会話に注目するだけで、日常会話の基準ともなるべき言い回しを見つけることができる。
どの場面も現代を象徴するリアリティに富んでいて、アメリカでは、もはや珍しくない女性パイロットが、離陸直前にチャックたちが飲んでいるワインをみて、"I
see no evil, hear no evil, and speak no evil." (見ざる、言わざる、聞かざる-P28)と言ったり、チャックの同僚スタンの奥さんの病状を尋ねたりする。"It
hasn't metastasized." (転移はしていない-P28)と答えるスタン。時折出てくるテレビ番組はサラエボや香港のクリスマス風景など。
チャックの出発前、車の中で、ケリーはチャックへクリスマスのプレゼントを渡す。ケリ?の祖父が使っていた金時計。ふたには彼女の写真が。これをメンフィス時間に合わせて、"Kelly
time." (ケリータイムだ-P44)と言うチャック。この時計が大きな意味を持つ。
チャックが乗った飛行機が墜落する前に、パイロットが発する"Mayday!"(P54)という聞き慣れない言葉は、航空機/船舶の無線遭難信号。最近、日本の軽飛行機が北海道の沖で不時着したが、2001年7月10日の国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンもこう書いている。"The
pilot then sent a mayday distress signal and headed westward"(パイロットは遭難信号
mayday を発し、西へ向かった)。
九死に一生を得たチャックは、南太平洋の無人島へ漂着する。 やっとの思いで、食べ物を探し、火を起こし、流れ着いた宅配便の中からバレーボールを見つけ、その上に人の顔を描いて、ウィルソンと名付ける。雨の日も風の日も、話し相手はウィルソン。歯が痛むとチャックは言う。"I
wish you were a dentist. Yeah, Dr. Wilson." (君が歯医者だったらなあと思うよ。ねえ、ウィルソン先生-P82)。ケリーの絵を描いてウィルソンにみせる。"She's
much prettier in real life." (実際の彼女はもっともっと美人だよ-P82)。
そんな毎日でも自然は確実に時を刻む。4年経ったある日、チャックは自分で作った筏で島から脱出し、通りかかった船に救助される。文明社会の時の流れはチャックのそれよりずっと速かった。ケリーは結婚して、幸福な生活を送っていた。チャックはケリーに会いに行く。そこには、2人がドライブしていたチャックの車があった。そこで、2人は過去の4年は存在せず、昨日から今日になったかのような錯覚にとらわれる。"I
love you. You're the love of my life." (愛しているわ。わたしの大切な永遠の恋人よ)"I
love you too, Kelly. More than you'll ever know."(ケリー、ぼくも君を愛している。今まで以上に。-P126)。それでも、2人は別れる。それがチャックの選択だった。ケリーはそれを受ける。
チャックはスタンに言う。"Tomorrow, the sun will rise. Who knows what the tide
could bring?"(明日、太陽は昇る。潮流が何を運んで来るかは誰もわからない-P130)。チャックは無人島で将来の希望なしに生きていた。そこへ新しい潮流が来て、船出するチャンスに恵まれた。どの場面のどのフレーズも、暗記するだけで、あなたの言葉になりますよ!
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原島 一男 |
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■目次
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1. |
Special Delivery |
特配便 |
……………… |
8 |
2. |
Happy Holidays |
幸せな休日 |
……………… |
22 |
3. |
Good-Bye |
別れ |
……………… |
42 |
4. |
Stranded |
座礁 |
……………… |
58 |
5. |
Let There Be Fire |
火を燃やせ |
……………… |
72 |
6. |
Hope Floats |
やってきた希望 |
……………… |
86 |
7. |
Escape |
脱出 |
……………… |
98 |
8. |
Home Coming |
帰宅 |
……………… |
106 |
9. |
Meeting Kelly |
ケリーとの再会 |
……………… |
116 |
10. |
Journey |
旅 |
……………… |
128 |
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■コラム
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生きることへの地獄 |
……………… |
84 |
ウィルソン |
……………… |
85 |
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■リスニング難易度
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評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
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・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
20点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
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