デイライト
DAYLIGHT


監修 高瀬文広
翻訳 高瀬文広/八尋春海/八尋真由美
語句解説 秋好礼子/中谷安男
編集 二村優子/PAUL LEWIS
A5判 144頁、ISBN4-89407-249-1
本体価格=1,200円(税別)
2001年(平成13年)5月16日 初版発行


マンハッタンとニュージャージーを繋ぐ海底トンネルで、有毒廃棄物の爆発事故が発生、トンネルが崩落し多くの人々が閉じこめられた!偶然居合わせたシルベスタ・スタローン演じるキットが、孤軍奮闘の救出劇を展開する。アクション作品なので英語はやさしい。

書 籍 紹 介
 
映 画 紹 介
書 名 スクリーンプレイ
「DAYLIGHT
       デイライト」
製 作 1996年
監 修 高瀬 文広 会 社 Warner Bros
仕 様 A5版、144ページ 監 督 ROB COHEN
発行日 2001年5月16日 脚 本 LESLIE BOHEN
出版社 株式会社 スクリーンプレイ 出 演
SYLVESTER STALLONE
定 価 本体1,200円(税別) AMY BRENNEMAN
ISBN 4-89407-249-1 STAN SHAW

 

■この映画のストーリー

 どこの都市にもありそうな車道トンネルを、いろいろな悩みやバックグラウンドを背負った人々が、狭き入り口から向こう側へと往き来する。映画『デイライト』は、そのようなごく普通のトンネル内を舞台にした物語である。いつでもどこでも起こる可能性があるというところがとても怖い。現に日本でも、北海道でトンネルの崩落事故が起こったことがある。この映画は、マンハッタンとニュージャージー州を結ぶ海底トンネル内で、有毒廃棄物が爆発してトンネルの両出入口がふさがれた事故という設定だが、実は1940年代にニューヨークのホランドトンネル内で実際に起きた有毒化学物質爆発事故をベースにしている。
 シルベスター・スタローンが扮する主人公のキット・ラトゥーラは、EMS(Emergency Medical Services;緊急医療サービス班)の元チーフで現在はタクシー運転手という設定である。彼が偶然事故に遭遇したこともあって、単身、トンネル内にとじ込められた遭難者の救出に向かう。救出するために通る入り口は、コンピューター制御の巨大な送風口。入ることは出来ても、再び戻れないところである。トンネル内の空気は、3時間程しかもたない。刻一刻と時間が過ぎる中、トンネル内には浸水が始まる。水はとても冷たく、水の中では凍死する可能性もある。トンネルの両方の出入り口は、大爆発のために完全に塞がれている。このように脱出方法も空気もなく、また、時間も残されていない極限の状態で、取り残された人々を導き脱出する方法を主人公のキットは探すことになる。
 そのような絶体絶命の状況の中で、トンネル内にあるという建設作業員の寄宿舎が見つかり、そこの礼拝所のキリスト像の背後から脱出口が偶然にも発見される。教えてくれたのはなんと、人が嫌うラットである。動物は何か危険があると人間よりも早く察知して、安全なところに避難すると言われる。その習性が彼らを救うこととなるのである。ここで注目に値するのがキリスト教である。ラットによって導かれる神の救いである礼拝所とキリスト像が、生存者にとって延命につながる唯一の脱出口という設定に、アメリカ社会にキリスト教ピューリタニズムの存在が感じられる。
 また、映画『ポセイドン・アドベンチャー』と同様、助かるには水の中に潜って行かないと助からないというところにも、キリスト教の洗礼というイメージがあらわれている。さらに、シルベスター・スタローンが演じるキット(Kit)という言葉を『新英和中辞典』(研究社)で調べると、男性名の場合はクリストファー(Christopher)の愛称である。さらに、そのクリストファーを語源辞典でひいてみると、「キリストを運ぶ者」という意味でもある。主人公の背にキリストを背負っているかのように、いろんな困難に危機一髪のタイミングで助かり、生存者を救出するのである。このように、主人公にもキリスト教を感じさせる名前が付けられている。
 シルベスター・スタローンといえば、『ロッキー』『ランボー』『コブラ』という映画で分かるように、どちらかといえば強い相手、とってもかないそうもない相手と戦うヒーローのイメージが強い。ところが、今度の相手は人間ではない。時間、浸水などの自然、そして自分の中にわき出る恐怖心との闘いである。
 強いヒーローだからこそ、心の中の弱さを他人に見せないのであろうか。スタローンはウーピ−・ゴールドバーグやロビン・ウィリアムスなどのムービースターと違って、顔の表情の変化が極端に乏しい。まるでお面をかぶった狂言師を連想させる。スタローンが笑ったり、泣いたりするシーンはあまり想像できない。確かにそういうシーンはあるのだが、彼を見ているといつも同じ表情をしていると感じるのは私だけであろうか。この『デイライト』でも、彼の顔の表情はとても乏しい。そこが、絶対に勝てそうもない相手に勝つことの出来るヒーローの、超人的なキャラクターとして一番ふさわしいのかもしれない。
 次に、この映画の監督であるロブ・コーエンは1971年にハーバード大学を次席の成績で卒業しスクリプト・リーダーの仕事を始めるが、大学2年の時にはすでにテレビ映画 Silent Night, Lonely Night で助監督を務めている。その後20世紀フォックス・テレビ副社長の助手となり、23歳でモータウン社の映画部門の副社長に就任している。このような輝かしい経歴を持つコーエンだが、彼は運悪く1980年のボストンのホテル火災に巻き込まれている。その時彼は、『タワーリング・インフェルノ』というビル火災の映画の避難方法を実践して、難を逃れたという経験を持つ。さらに興味深いのは、彼が最初に映画の撮影現場に立ち会ったのは『ポセイドン・アドベンチャー』という転覆した客船から脱出する映画であることだ。これらのことから、監督が『デイライト』に惹かれるのも、うなずけるような気がする。
 次から次に難題が降りかかりながらも、1つ1つクリアーしていくストーリー展開と実際の事故をベースにしているというリアリズムが、この映画『デイライト』をとても面白いものに仕上げている。また、あまり目立つ役柄ではないが、ヴィンセントとしてスタローンの息子セイジ・スタローンが出演しているのも興味深い。
高瀬 文広

■この映画の英語について

 一般にアクション物に共通のことであるが、映像での衝撃的なシーンや、登場人物の激しい行動が映画の中心になる。このため、微妙な心理描写を表現するセリフや、細かい情緒的表現は必然的に少なくなる。むしろ複雑なレトリックやメタファーは、どちらかというとストーリー展開の上で邪魔になりかねない。ひとつ間違うとシナリオは浅薄で単調になってしまう。このような制限の中で、いかにウィットのあるセリフを使えるかがシナリオライターの腕の見せ所である。
 特にこの映画の主役は、いわゆる「ザ・マン」タイプのシルベスター・スタローンであり、アクション物が最も似合う俳優である。彼の主演作品に共通の無骨で無口なヒーローは、極論するとセリフはいらない。このような条件において、この映画のシナリオを活性化しているのはスポーツ用品会社の取締役で、自分が本物のヒーローだと疑わないロイのセリフである。ロイは自己陶酔の極地のアンチヒーローであるが、セリフは粋である。トンネル警備員のジョージは事故現場で出くわしたのが有名人のロイとわかり、"I wear them on Saturdays, on my day off."(あなたがコマーシャルしている靴を土曜日の非番の日に履いているよ)と言うと、ロイは、"Bet you wish it was Saturday now, huh?"(今日が非番の土曜日だったら、今ごろ楽しくやっていてこんな目に会ってなかっただろうにな)とジョークを言う。また、ジョージが抜け道を探すのは無駄だと、ロイを止めようとすると "I was born six weeks premature. My own mother couldn't keep in."(実の母親でさえ、俺をお腹の中に留めておくことはできずに、予定日より6週間も早く出てきたんだ。そんな俺を誰も止められないよ)と切り返している。
 極めつけは、主人公キットが、無謀な脱出劇を演じるロイを危険だからと命令口調で止めると、"That sounds like an order... You wanna give me an order, call my eight-hundred number." order の「命令」の意味と「注文」という意味をひっかけて、(私への order はフリーダイヤル800でお願いします)と言ってのける。日本語的感覚からすると、彼の言動は単に滑稽に映るかもしれない。しかし、死に直面した極限状態でもユーモアたっぷりに振る舞う、アンチヒーローの英語表現が、単調になりがちなシナリオを救っている。
 逆にアクション物の良いところは、日常頻繁に使われる英語の口語的表現が多い点である。繰り返し出てくる単純なセリフを追うことで、英会話学習の絶好の教材となる。  gotta, wanna, gonna 等の典型的な話し言葉や Got it? といったような口語表現、 figure out、hang on などの必須会話熟語のように、数え上げれば切りのない効果的な学習材料があふれている。
中谷 安男

■目次

1. The Toxic Waste 有毒廃棄物 ……………… 8
2. The Explosion 大爆発 ……………… 22
3. Survivors 生存者たち ……………… 36
4. Kit's Plan キットの計画 ……………… 56
5. A Rescue 救助 ……………… 68
6. The Scandal スキャンダル ……………… 80
7. Breathe! 息をして! ……………… 94
8. Bunk Room 宿舎 ……………… 108
9. A Way Out 出口 ……………… 120
10. Daylight 陽の光 ……………… 136

■コラム

水底or海底トンネル ……………… 54
映画における洗礼のイメージ ……………… 92
ニュージャージー州 ……………… 106
換気シャフト ……………… 107
EMS ……………… 118
シルベスタ・スタローンについて ……………… 119

■見本ページ


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■リスニング難易度

評価項目 易しい(1) → 難しい(5)
・会話スピード
1 2 3 4 5
・発音の明瞭さ
1 2 3 4 5
・アメリカ訛
1 2 3 4 5
・外国訛
1 2 3 4 5
・語彙
1 2 3 4 5
・専門用語
1 2 3 4 5
・ジョーク
1 2 3 4 5
・スラング
1 2 3 4 5
・文法
1 2 3 4 5
合 計 19点

( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 = Advanced, 35以上 = Professional )