■この映画のストーリー
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幼い頃、母に捨てられ孤児院で窮屈な日々を送っていたジェシーは、規則ずくめの生活に嫌気がさして、友人とともに逃げ出した。勝手きままな人生のストリート・キッドになって人を騙したり盗みを働いたりと、やりたい放題の生活に明け暮れていたが、とうとう警察に追われるはめに。逃げ込んだ水族館で壁にいたずら書きをしていたときにご用となり、連れ戻された孤児院から里子に出されることになってしまった。彼の身柄を引き受けたグリーンウッド夫妻は親切な人たちで、彼に対して出来うる限りの厚意を示す。だが、悲しいかな、親の愛は言うに及ばず、他人の思いやりも知らずに育ったジェシーの目にはすべてが大人のまやかしにしか映らない。彼のために用意された、一面に海が見渡せる二階の部屋も、心のこもった歓迎のプレゼントも、彼にとっては単に親切心の押し売りに過ぎないのだ。いや、彼らから優しくされればされるほど、彼らに対してジェシーは心を閉ざしてしまう。心の底ではありえないと知りつつも、「もうすぐママが僕を迎えに来てくれるんだ」と、ついつい憎まれ口をたたいたりもする。もう二度と人を愛し、傷ついたりなんかするものか。厳しい現実を通して学んだ少年ジェシーの余りにも悲しい哲学が、そこにはあった。
そんなある日、罰として課せられた水族館の落書きを消しているとき、小さな水槽に閉じ込められていたウィリーに出会った。誰にもなつかず、変わり者のシャチとして水族館のみんなから持てあまされていたウィリーが、なぜかジェシーにだけは優しい表情を浮かべて近づいてくる。彼が寂しさを紛らすためにときおり唇を押し当てて吹く、ハーモニカの悲しい悲鳴にも似た調べのなかに、人間によって引き離された自分の家族の鳴き声を聞いたのだろう。周囲の世界になじめず、心から話し合える友も、また愛する家族もいないジェシーに自らの姿を見たのかも知れない。とにかく、水槽のガラスを通して目と目が会った瞬間に、心に深い傷を負った一人の少年と同じ境遇にある一匹のシャチの間に奇跡が起きた。ウィリーに触れ、語りかけ、そして芸を教えていくうちに、いつしか人間と動物の間に友情が芽生え、彼らは固い絆で結ばれた親友になっていく。ストリート・キッド時代の不良仲間からのロス行きの誘いを断り、ウィリーとの生活を選んだ彼は、もはや、以前の彼とは全くの別人だった。だが、この頃、経営の思わしくない水族館の経営者は、経済的負担にしかならないウィリーを殺して100万ドルの保険金を手に入れようと密かに目論んでいた…
愛と自由をテーマに人間と動物の心暖まる触れ合いを美しい映像で綴った、1993年度を代表するこの作品の監督は、オーストラリアとアメリカのテレビ界で縦横無尽の活躍をする
Simon Wincer、制作総指揮には The Omen (1976)、Superman (1978)、The Goonies
(1985)、ならびに Lethal Weapon シリーズ (1987〜92) などのヒット作を監督として世に送り出し、そちらの面での手腕も高く評価されている
Richard Donner だ。そしてシャチとの出会いを通して愛することの大切さと苦しさを学んでいく少年ジェシーを演じるのは、4,000人ものなかからオーディションで選ばれたハワイ出身の
Jason James Richter である。 |
曽根田 憲三 (相模女子大学教授) |
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■この映画の英語について
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心暖まる映画である。ということは、せりふにもなんらかの工夫がこらされているはずである。皆さんは気づかれたであろうか?
Willy について述べられている部分を少し抜き出してみると。Orcas are usually nice and smart.
Most orcas love to play around and do tricks. He's not into this.
Something's wrong. Animals can be unpredictable. などが目につくが、この文章の主語は「子供」あるいは「Jesse」と言い換えても差し支えない。また今度は
Jesse 自身のせりふを拾ってみると、I'm not livin' here. I'm just staying here for
a while. は主語を Willy にしても全く同じことが言える。Willy のあるべき姿を見つめる一方で、(里)親が子供に接する自然のありかたが追求されているのである。押しつけではない教育論、とでも言えようか。
Jesse が豊かな人間関係を築きあげてゆく途中経過をみると、当初 Glen に You're asking me? と言って驚いていた
Jesse が最後には I'm askin' for your help. He's gonna die. などと「信頼」に基づいた「依頼」をしてみたり、里親との約束がなかなか守れないにもかかわらず、Willy
とは I'll make a deal with you. と言って手をかまないように「約束」させたり、I'm not your
son. と言ってつっぱっていたのが最後に Glen に Hey, let's go home. と言われて素直に従い、自分にとっての「家庭」を認めたりする変わりようが確認できる。最初の大きな変化は
Willy に命を助けられたことに対する「感謝」の念が Jesse に芽生えたことであり、その直後に Jesse は Willy
を網から逃がし、それを見ていた Randolph は I'm sure Willy's grateful. と言って彼の行動に「理解」を示したのであった。
上記の「 」内に示した心と心のつながり表す語句の中で興味深いものをひとつ選ぶと、最終場面で Jesse が Willy にささやく
I really love you, boy, and I believe in you. や I believe in you,
Willy. You can do it. の中の believe in となる。これは単に「信じる」ことを意味するのではなく、相手に対する「好意」や、相手の成功を「願う」気持ち、すなわち
love そのものに直接つながる意味を持っている。
最後に聞き取りについて。むずかしい用語はないが、自然な会話ゆえの速さについていく必要がある。大切な単語がきちんと発音され、助動詞・冠詞・人称代名詞などの補足的な語が弱くなるために速く聞こえることをまず基本として抑えていただきたい。たとえば
Do you...? で始まる疑問文は冒頭が「ジュ」に近く縮まる。また h が消えやすいことを合わせると、映画半ばあたりで Rae
が Jesse にたずねる Do you have a girlfriend? が「ジャバ girlfriend? 」と聞こえることが納得できるであろう。一方で語末の
s はしぶとく残るので、Let's go. / It's okay. は「ツゴウ」「ツォーケイ」となる。 |
吉田 雅之 (神奈川県立外語短期大学専任講師) |
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■目次
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1. |
僕、自分の家が欲しい |
I Just Want My Own Place |
……………… |
7 |
2. |
よく来てくれた |
It's Great to Have You here |
……………… |
17 |
3. |
ウィリーは変わり種 |
Willy's a Case |
……………… |
24 |
4. |
君は命の恩人だ |
You Saved My Life |
……………… |
32 |
5. |
ウィリー、心の友を見つける |
Willy's Got Himself a Soul Mate |
……………… |
41 |
6. |
厄介払いしたい? |
You Wanna Dump Me? |
……………… |
54 |
7. |
ウィリー・ショー |
The Willy Show |
……………… |
66 |
8. |
ウィリーの価値は100万ドル |
Willy's Worth a Million Dollars |
……………… |
79 |
9. |
がんばれ、相棒 |
Hang in There, Bud |
……………… |
90 |
10. |
さよなら、ウィリー |
So Long, Willy |
……………… |
96 |
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■コラム
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環境問題とシャチ |
……………… |
31 |
アメリカの養子法について |
……………… |
53 |
ハイダ族について |
……………… |
95 |
出会ったときの決まり文句 |
……………… |
103 |
シャチとの対談 |
……………… |
105 |
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■リスニング難易度
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評価項目
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易しい
→ 難しい |
・会話スピード
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・発音の明瞭さ
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・アメリカ訛
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・外国訛
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・語彙
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・専門用語
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・ジョーク
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・スラング
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・文法
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合 計 |
13点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24
= Intermediate, 25-34 = Advanced,
35以上 = Professional )
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