■この映画のストーリー
|
『ヒューマンネイチュア』(2001)という映画は、2001年第54回カンヌ国際映画祭の正式出品作品で、また同年の第14回東京国際映画祭コンペティションでも熱狂的支持を得た作品である。その理由は、この映画の製作・脚本に参加したスタッフとキャストの顔ぶれを見れば一目瞭然であろう。監督がミシェル・ゴンドリーで、その他『マルコヴィッチの穴』(1999)を初監督して有名になったスパイク・ジョーンズとその脚本を手がけたチャーリー・カウフマン(脚本・製作)、『いつか晴れた日に』(1995)のアンソニー・ブレグマン、『ウェディング・バンケット』(1993)のテッド・ホープが製作に加わっており、奇想天外な着想と独特のユーモアいっぱいの作品に仕上がっている。
また、多彩なキャストがこの映画をさらに面白いものにしている。類人猿のように毛深い女を演ずるのは、『トゥルー・ロマンス』(1993)、『ロスト・ハイウェイ』(1997)のパトリシア・アークエット。森の野生人として登場するのは、『ノッティングヒルの恋人』(1999)でヒュー・グラントのルームメイト役(スパイク)をしたリス・エヴァンス。フランス語訛りの英語を話すガブリエルには、『ホワット・ライズ・ビニース』(2000)や『ロード・オブ・ザ・リング』(2002)でエオウィン姫を演じたミランダ・オットーを配し、さらに、ネズミにテーブルマナーを教えるネイサンを『ショーシャンクの空に』(1994)や『ミッション・
トゥ・マーズ』(2000)のティム・ロビンスが好演。それぞれが見事に自分たちの役を演じている。
幼い人間の子が動物に育てられるという設定の物語は多いが、この『ヒューマンネイチュア』は、自分を類人猿だと信じている人間に、自然の中で育てられた野生人の男性が、いろんな訓練を受けて野生人から人間になり、学位を取るまでに成長するという
ちょっと変わった映画である。この映画の中で野生人のパフを訓練させるくだりは、アメリカ合衆国ジョージア州アトランタのジョージア州立大学言語研究センターの類人猿の飼育がヒントになっているかも知れない。この研究所には同様の訓練を受けて、TVゲームに熱中したり、ハサミを使ったり、道具までも作れるまでに成長したカンジという名のピグミーチンパンジー(別名:ボノボ)が存在する。カンジにはパンパニーシャという妹もいて、カンジ同様英語の日常会話を理解できる。約1000語の英単語や700以上の文章を記憶し、人間しかできないと思われてきた行為を次々に成し遂げているのである。また現在、過去、未来という時間の概念までも理解するといわれている。
次に、この映画のストーリーを簡単に紹介する。ライラという少女が12歳のとき、ホルモン異常からくる原因不明の病気で胸に毛が生えてくるという事件が全ての始まりである。彼女は成長するにつれ、類人猿のように全身毛むくじゃらになっていく。とうとう彼女は自殺を図ろうとするが1匹のネズミを見て思いとどまる。だが、体毛を剃りながら人間社会の中で暮らすことに疲れた彼女は、人間の世界で生きるのをやめ大自然の中で服を着用せずに生きることを決心する。ライラは動物たちとの森での生活によって、次第に大自然の中で生活することの素晴らしさを知るのである。これを本にしたら大ヒットし、ベストセラーになる。しかしそのうち、森の中での生活で男が欲しいという抑えられない欲望が湧き出る。そこで印税でもうけたお金を使って電気療法所での全身脱毛を試みるのである。その療法所でネズミにテーブルマナーを教えるネイサンという男性を紹介されるのだが、自分の秘密を隠しながらも何とか恋人になる。あるとき2人で森をハイキング中に、自分を類人猿と思っている人間に森で育てられた男パフに出会う。言葉をもたない、まるで類人猿みたいなこの男に、ネイサンはテーブルマナーをはじめ、いろいろなことを教える。パフは次第に言葉を覚え、日常生活ができるようになり、最終的には学位までも取得することになるのだが・・・。
類人猿のように毛むくじゃらになった女性ライラ、ネズミにテーブルマナーを教える博士ネイサン、森で類人猿と同じような生活をしてきた男性パフ、アメリカ人なのにわざとフランス語訛りの英語を使ってフランス人ぶって博士に言い寄るガブリエルなど、登場人物はとてもユニークである。コメディであってコメディだけでない、愛、誘惑、破滅、裏切りありの作品で、自然を通して人間とは何かを考えさせてくれる映画である。また、この映画の中から「テーブルマナー」、「多毛症」、「ピグミーチンパンジー等の絶滅危惧種」、「自然」、「野生人」、「現代の若いアメリカ人女性」、「英語とフランス語」等、ディスカッションやレポート作成をするためのいろいろなテーマを見いだすことができ、英語学習だけでなく様々な知識を身につけるのに非常に役に立つ映画である。
|
高瀬 文広 |
|
■この映画の英語について
|
ネズミにテーブルマナーを仕込むネイサン、異常に毛深いライラ、自分を猿と信じているパフ、アメリカンガールのくせにフランス娘を演じるガブリエル、誰をとっても「超」個性的なキャラクターである。その話し方にもそれぞれの性格が反映されていて楽しめる。会話は比較的聞きやすく、若者がよく使う口語やスラングが使われているのと同時に、お手本にすべき丁寧語も使われていて、状況や相手に応じて言葉が使い分けられているということが確認できるだろう。同じ事を言うにしても、言い回しは色々あるのだ。
文明 vs.本能、外見 vs.中身、虚偽 vs.真実など、様々な葛藤がある複雑な人間関係の中、エステティシャンのルイーズとライラは、この映画の中で最も気のおけない関係にある2人で、とてもテンポのいい、かつ相手を思いやるやさしさを感じさせる会話を聞かせてくれる。脱毛治療が順調だと聞いて
Yeah?(ほんと?)と言いながら不安げなライラに、ルイーズはすかさず Oh yeah.(ほんとよ)と言い自信たっぷりな表情を見せる。さらにルイーズは、やっとつかまえた恋人に毛深いことがばれそうだと悩んでいる時にも、You're
a wonderful woman. He's lucky to have you.(あんたはサイコーの女じゃないの。やつは運がいいよ、あんたと付き合えるなんてさ)と言って力強く励ます。それでもウダウダ言うライラに、人間は中身よと言い切り、No,
period. End of sentence. End of paragraph. Close the book, we're
done.と、「それだけ、おしまい」という意味の言葉をこれでもかと言わんばかりに連発して彼女の不安を払拭しようとする。ルイーズの表情や、言葉を発するタイミングなどは、男女を問わず気心のしれた友達同士の会話のお手本にしたい。恋愛に関心があれば、"Are
you still in the market for a real boy?"(まだ恋人募集中?)という言い回しも要チェック。
行儀作法にうるさいネイサンや、きちんとした英語を習得しようとがんばるパフの言葉は、丁寧語の例として参考になるだろう。例えば、ネイサンがパフを人間に仕立て上げる過程で、パターン練習をするパフと一緒に、レストランでの決まり文句をテーブルマナーと共に今一度確認してみるのも勉強になるはず。また逆に、反面教師的なモデル探しもおもしろい。英語を完全にマスターできていないパフや、今時の女の子ガブリエルの話す言葉には、時々文法的な間違いが見られる。どこが間違っているか、ネイサンになりかわって厳しいチェックを入れてみよう。その他、You're
doing very nicely.、 Excellent、 Great、?Good boy.などのほめ言葉、There, there(よしよし)というなだめ言葉も、ちょっとした言葉だが知らなければとっさには出てこない。頭の隅にでも入れておこう。
|
秋好 礼子 |
|
■目次
|
1. |
Lila |
ライラ |
……………… |
8 |
2. |
Nathan |
ネイサン |
……………… |
24 |
3. |
What Is Love? |
愛とは? |
……………… |
38 |
4. |
Table Manners |
テーブルマナー |
……………… |
54 |
5. |
Bizarre Love Triangle |
奇妙な三角関係 |
……………… |
70 |
6. |
Adaptation |
順応 |
……………… |
80 |
7. |
Nathan's Choice |
ネイサンの選択 |
……………… |
96 |
8. |
Escape into Nature |
自然に還る |
……………… |
112 |
9. |
The Hunt |
狩り |
……………… |
124 |
10. |
Puff's Triumph |
パフの勝利 |
……………… |
134 |
|
■コラム
|
野生人 |
……………… |
22 |
ピグミーチンパンジー |
……………… |
52 |
ガブリエル |
……………… |
68 |
パトリシア・アークウェット |
……………… |
69 |
リス・エヴァンス |
……………… |
94 |
ティム・ロビンス |
……………… |
122 |
|
■リスニング難易度
|
評価項目
| 易しい(1) → 難しい(5)
|
・会話スピード
|
|
・発音の明瞭さ
|
|
・アメリカ訛
|
|
・外国訛
|
|
・語彙
|
|
・専門用語
|
|
・ジョーク
|
|
・スラング
|
|
・文法
|
|
合 計 |
29点 |
( 16以下 = Beginner, 17-24 = Intermediate, 25-34 =
Advanced, 35以上 = Professional )
|